エンドレス・サマー

前向きで切ないアイドルたちが大好きです。

「ピンクとグレー」

今さらですが、「ピンクとグレー」感想です。

ピンクとグレー

ピンクとグレー


なんとなく、「ピンクとグレー」が肌に合わなかったらシゲ担は無理かも……と思い、買ってから半年以上積読状態。
先日の漫画化に合わせて、ようやく読むことにしました。
そうしたら、予想を超える良作。

シゲが書いている、処女作、というバイアスをかけずに読める面白さだったので、感想もベタ褒めでなく普通に書きます。
一回さらっと読んだだけなので、熟読された方の感想も聞いてみたいです。

ネタバレ大丈夫な方はどうぞ。

あらすじ

幼いころから同じように育ち、同じ道を歩んできたはずの「ごっち(鈴木真吾)」と「りばちゃん(河田大貴)」。
しかし、些細なことをきっかけに、2人は芸能界を舞台に栄光をつかむものと零落するものに分かれていく。


構成

語り手の「僕」こと河田大貴の視点で物語はつづられていく。
りばちゃんとごっちが同じ道を歩んでいた幼少期からの回想。そして、2人の道が分かれたあと、24歳のりばちゃんが大スターになったごっちに抱く捻くれた嫉妬と劣等感。
章ごとに2つのストーリーが進められていくため、今と昔が少しずつ繋がって全体像が見えてくるパズル感が、前半部の派手さはない伏線部分を読み進めたいと思わせる作り。


感想

石田衣良さんが帯を書かれていたことに、めちゃくちゃ納得しました。
池袋ウエストゲートパーク的なところありますね。あだ名で呼びあうとか、音楽を多用するとか、文体を飾っているところとか。

■繊細な構成とリアリティーが光る
まず意外に思ったのは、芸能界を舞台にしているものの、芸能界の裏側を見せるみたいなのは全く本質じゃなく、あくまでも2人の日常や生活の描写と同じ扱いにとどまっていたこと。それがすごく上品だった。
ストーリー展開はすごくシンプル。そのシンプルさを詞的で飾った文体と、音楽、絵が浮かぶような精緻な描写、丁寧な構成で上手く支えていた。
あと、時系列を行き来していた構成の良さが光って、対照的な2つのストーリーが交わる盛り上がりと、道を違えた大人の2人が再開するシーンが重なってぐっとくるものになっていたと思う。


2人を分けたもの

■普通の人とスターは何が違うのか
語り手のりばちゃんって、やや変わってるっちゃ変わってるけど、本当にふつうの男の子なんですね。昔のごっちもそんな感じ。

ごっちはエキストラで行った現場で、些細なことでプロデューサーに気に入られてドラマに起用され、人気俳優になっていくんだけれども、その過程でりばちゃんや、幼馴染で彼女だった女の子や、日常生活、自分の主張やらを捨てて、代わりに美人モデルと付き合い、高いマンションに住み、昔バカにしていたようなださい曲を歌ってようやくスターになれている。

■どこまで捨てて、狂えるか
結局、この2人の意識を決定的に分けたのは、一瞬のステージのためにどこまで捨てられるか、それだけなんだと思う。
最高のステージを作る、ステージで最高に輝くその一瞬のために、何もかも投げ出してしまう狂気じみた執念。

「ごっち」は芸能界のステージで輝く瞬間を目指す強い理由があり、それが彼のアイデンティティになっていた。そのため、ごっちは何もかもすべて投げ出せたけれど、りばちゃんは無意識に投げ出すのを拒んだ。
だからこそ、最後の最後、りばちゃんが芸能界という最高に華やかで最も儚いステージに魅せられ、自分をそぎ落としていく姿に寒気がした
このひっそりと迫ってくるような狂気と、感情が丁寧に描かれていることで、良い作品になっていると思う。


その他

■いったい誰が成功したのか
よくあらすじにあるような栄光と挫折の物語、という感じはしなかった。
むしろ、私は成功したはずのごっちにとてつもない哀しさと冷たさを感じた。何もかも捨てて、周りに操られ、望まれるままに新しい皮を被るごっち。りばちゃんは、スターにはなれなかったけれど、ごっちが捨ててしまった自分や人間らしい暖かさはきちんと持っている。
それくらい、成功することの侘しさも書かれていたし、当たり前の生活をすることの暖かさも書かれていたと思う。

■登場人物にモデルはいるのか
あと、登場人物にモデルはいるの?って話もよく出ていました。実際に読んでみて、本人の言う通りどっちもシゲであり、シゲでないんだと思います。
あえて言うなら、私はごっちにシゲを見ました。読んだ方はどんな感想をお持ちになりましたか?

そんなわけで、りばちゃんがスターになったごっちに皮肉っぽい発言をしているシーンでは、その表に出せない嫉妬心も痛々しいほどリアルだったし、ごっちへの皮肉がいちいちシゲへのカウンターに思えて仕方なかった。

■女性キャラの薄さ
全体を通してかなり残念だったのは、女性キャラの書き込みが薄い点。
特にキーマンとして出てくる幼馴染の女の子は、あまりにも記号的だったし、こんな感じの女の子魅力的じゃない?みたいなざっくりしたイメージで押し切ろうとしてた感もあった。
お母さんやお姉さんといった、身内のキャラクターは自然でよかっただけに、わざと書き込み過ぎないようにしたのかなとは思いました。
それでも、もうちょっと頑張ってほしい。


まとめ

よくできてます。一作目とは思えないくらいのまとまりがあります。
言葉選びも面白いので読み返したくなります。
あと、凝った構成なので一気読みをおすすめ。

映画みたいに、世界観と感情表現、文体の面白さに浸れる作品です。浸るといっても、構成や枠組みはちゃんとロジカルに作ってあるので、押しつけがましくなく理解できるエンターテイメントになっていて、親切だなと感じました。
ラストはやや説明過多な気もするけど、それも好みの問題だと思います。

伊坂幸太郎さんのアヒルと鴨のコインロッカー「ラッシュライフ」等の作品が好きだったら結構どんぴしゃだと思います。
私は未読ですが、ASUKAで漫画化もされているので興味がある方はそちらもぜひ。

もしもピングレの感想を聞かせて下さる方がいましたら、コメントやらリプライやら頂けると幸いです。