鍵のかかった部屋感想(物語編)
国際ドラマフェスティバル「MIPCOM BUYERS’ AWARD for Japanese Drama」の受賞おめでとうございます!
http://nab.or.jp/drafes/press/pdf/drafespress20121009j.pdf
鍵部屋BD週間1位おめでとうございます!
http://mantan-web.jp/2012/10/17/20121016dog00m200052000c.html?mode=pc
いろいろと鍵部屋のおめでとうごとが続いています。
というわけで、鍵部屋の感想後編。お待たせしました!
言い訳すると、この作品はセリフがかなり読み解きにくいんです。
作品全体で登場人物たちの解釈を視聴者に投げているところがあるために、概ねのストーリーは全員がわかるものの、細かい描写はあえて解釈が何通りも浮かぶようなゆるーい描き方をしているんですよね。
なので、筋が通るようで通らないようなそんな解釈ばっかり浮かんできました。そういうところが好きなんですけど(笑)
注目する部分はそこまでぶれてないと思いますので、みなさんがご自由に解釈してください!
言い訳ばっかりなのでお気付きの通り、今回は大苦戦。
ネタバレ大丈夫な方は続きから!
- 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
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■榎本径はどんな人物だったのか
■榎本の感情を読み取る
最終話を見終わった感想は、「贅沢!!」でした。
人を拒絶するようにほぼ無表情&淡々と早口でしゃべっていた榎本さんですが、人間嫌いなわけではなくて、対人関係が不器用なだけで根はすごく優しい人だということが明らかになっていきました。さらに、芹沢・青砥に慣れるにつれてすこーしずつ感情も豊かに、わかりやすくなっていきました。鍵について話しているときは嬉しそうとか、恋バナには動揺しちゃうとか。
青砥に対しても恋愛感情があるのかもしれない、くらいには進展してきました。
視聴者は3ヶ月かけて、榎本さんがデリカシーはないけど不器用な優しさや純真な部分も持っているだろう、ということに気付き、ミリ単位の微妙な表情やしぐさ、抑揚から感情の変化を読み取れるようになっていきました。
大野さんならではの微妙なさじ加減と、表現だったと思います。慣れるとぎりぎり読み取れるレベルなんですよね。なので、真剣に見た人ほど、榎本さんの変化に気付き、榎本さんの言葉にしていない裏側まで知っている気持ちにさせるんです。つまり、青砥と似たスタンスに視聴者を持ってくるための3ヶ月だったんだと思います。
■最終話でまさかの裏切り
多分、見ている人のほとんどが「えーっ!!!」と思わず叫びたくなったラスト。
それまでの榎本さんは、第一話の鍵オタクで人には興味がなく冷たそうなイメージを覆し、意外と相手の気持ちには敏感で、やや純粋で根は良い人だけども対人関係が不器用なため冷たそうに見えて損してる人、みたいな部分を見せていきました。
しかし最終話で、実はしたたかで証拠を残さない犯罪者なの!?という結末しか想像できない、怪しすぎる個人プレーをし、あくどい笑みを浮かべながら青砥と芹沢のもとを去っていきます。
10話までで榎本さんの素を見た!と思っていた視聴者は、最後の最後で榎本さんに手玉に取られていたことに気付き、私の見ていた榎本さんのどこまでが演技だったんだろう?と底知れない不安を感じます。
★榎本人物像に関する当日のツイート
・芹沢と青砥に対して心開きつつあったように見えた榎本さんは本心か、演技か。一番気になる。でも、わざわざ連絡とったってことは、一応繋がっていたいって気持ちはあるんだよね?
・三ヶ月、榎本さんの手のひらで転がされていたわけで。青砥に動揺してる!!みたいなのも榎本さんの演技なのか。悔しい!したたかで悪い男だけど忘れられない人。成瀬先生をひっくり返したような見せ方だなぁ。
・正直オチがきれい過ぎて困る。でも、続編で原作榎本と芹沢青砥の関係を見たい。いよいよ手玉に取る榎本の登場……!
■読み解く鍵は最終話にあり
■最終話の椎名(佐藤)V.S.榎本が示すものとは?
私は最終話でようやく、「鍵のかかった部屋」の核は「密室を解き明かすパズルミステリー」ではなく、密室トリックに象徴される犯人たちの心の闇を暴くことだった、と作り手の意図する見方に気付き、ドラマとして作りこまれている!とおおいに感動しました。
そんなわけで、最終話を読み解くことで榎本像に近づけるんじゃないかと思っています。
■最終回の対峙シーンのセリフ
実はダイヤではなく、両親を自殺に追い込んだ原因の社長を殺害することが本来の目的だったと明かす椎名。
「どうせ殺すなら、ついでにあのダイヤも貰っておこうと思ったんだ。
そうすれば世界が変わる。新しい人生を始めることができる。
ダイヤを手にすればガラスの向こう側へ行ける。
高級なスーツを着て、磨きぬかれた革靴を履いて、金が無ければとても手の届かないようないい女を口説くことだってできる。君のことは調べさせてもらったよ。
君になら分かるだろう?俺の気持ちが」
「それでガラスは越えられたんですか?
僕には そうは見えません」
「君にはどう見える?」
「前後左右。それから上下まで、ガラスに囲まれているように見えます。
僕はガラスの箱に閉じ込められるのはごめんです。
たとえ向こう側に行けないとしても、自由でいたいんです」
かたき討ちを果たし思いを吐露する椎名の圧倒的な熱と、つぶやくような「自由でいたいんです」に内に秘めた思いを込める榎本。
長いのにずっと緊張感があって、素晴らしいシーンでした。
■似ているようでどこか違う椎名と榎本
椎名は榎本の過去を象徴する存在として描かれていました。
エリートコースを予定されていたはずが両親の死によって一気に薄暗い人生を歩むことになった椎名。そして、自らの欲望のために両親を自殺に追い込み椎名の人生を変えたにも関わらず、椎名の顔すら忘れ、見下しているベイリーフ社長に憎悪を募らせていき、とうとう復讐に走ります。
榎本も誰にも話せない暗く、犯罪のにおいのする過去を持っているだろうこと、そして殺したいほど憎い誰かがいたこと、今も何か犯罪に関わっていることを想像させる設定でした。
生い立ちは似ていると思われる椎名と榎本。しかし、2人は違う立場にいる人間でした。
それをにおわせる演出の代表例が「靴」。
ドラマ放送中にも指摘がありましたが、「靴」が立場を表す重要な象徴になっていました。ぼろぼろのスニーカーを履く椎名と磨かれた靴を履いている他の登場人物。
椎名は榎本を「こっち側の人間」と称しましたが、靴を見る限り、榎本は「ガラスの向こう側人間」に近いことがわかり、椎名と榎本の対峙は終始榎本が優位に立って進行していきます。
また、「ガラスの向こう側」に行きたい椎名と、自由を犠牲にしてまで行きたくない榎本。彼らは一見似ているけども、違う決断を下します。
■椎名と榎本の違いはどこから生まれたのか
1つは、殺人を犯したかどうか。
「殺人だけは何があっても行わない」榎本が平和に、そして良心の呵責にさいなまれることなく生きていくため、自らに課したラインです。
これまでも榎本は一瞬の激情や、自らの幸せを求めて殺人を犯した犯罪者たちに一切肩入れをしていません。それどころか、殺人者への忌避を感じさせる瞬間がありました。完全に想像ですが、殺人を犯してしまったら、もし逮捕をされなくても窮屈な一生になること、人の命の重みを背負って生きていく辛さをリアルに想像し、感情を抑えつけて必死で「殺人NG」の枷をかけたんじゃないかなぁと。
そんなわけで、先のことを考えずに浅慮で殺人を犯してしまう人や身勝手さがあらわになった瞬間に、少しだけ榎本の素の感情が垣間見える気がしています。
2つ目は、椎名は代替可能な人間(清掃会社の椎名の扱いから感じること)であり、榎本は代替不可能な鍵の専門家、という違いだと思います。
榎本はその専門性ゆえに、ガラスの向こう側には行けなくても、軽んじられないくらいの重みを持ち、芹沢・青砥とチームを組むことも可能でした。榎本にとって鍵や錠について極めていくことは、より強い武器を手に入れることを意味します。
専門性を持っている、代わりのきかない人になることで、自らの専門に関わる事柄に関しては榎本は誰とでも対等に渡り合ってこれたのであり、椎名と並んだ時にどこか優位な印象を抱くのだと思います。
ただ、2人が違う選択をする理由は彼らの優先順位の違いから生まれるものであり、立場の違いが影響するとしたら榎本の方がより「ガラスの向こう側」の実態を知っているために、マイナス面に気付いている点だと考えています。
■ガラスの向こう側は何を意味するのか
「ガラスの向こう側」は本来椎名が歩んでいるはずのエリートの生活を象徴する言葉です。
もう少し言葉を尽くすのであれば、エリートのほかに「人を使う/尊重される/名のある人」との印象。ただ、エリートとして特別な存在になった人には相応の責任やしがらみもあれば、自分たちの薄暗い過去を掘り返されるリスクも圧倒的に高い。そのマイナス面を榎本は重く考えていますが、椎名はそこを深刻に考えていなさそうです。
逆に、ガラスのこちら側は、「人に使われる/軽く扱われる/名のない人(職業・役割で呼ばれる)/代替される人」との印象。どこかで日常を支えている彼らは、何事にも縛られずに生きたいと思えば、それに近い人生を歩むこともできるでしょう。
どんなことをしても「ガラスの向こう側に行きたい」椎名に対し、ガラスの向こう側に行くよりも自由でいたい榎本。
類似している椎名にとって「名誉や成功」が何よりも重要だったことから、榎本にとっても「ガラスの向こう側に行くこと」は無視できないくらい重要なことなんだろうと思います。
また、椎名が「ガラスの向こう側」に行きたい理由として「いい女と付き合う」と述べています。わざわざそんなセリフを入れてきたところから、(多分椎名よりも早々と)エリートの道を諦め達観していたはずの榎本が「ガラスの向こう側」に行きたい、と考える理由に青砥への恋心があるんじゃないかと思っています。
鍵部屋ワールドの中でも特に「純粋・正義・光」を象徴するエリートが青砥純子のわけで、榎本は「ガラスの向こう側」に行くことで青砥と釣り合う自分、を少し想像したんじゃないかなと思っています。
しかし、それよりも榎本は「自由」を選びます。榎本にとって何よりも優先度が高い「自由」。彼は「自由」を得るために他のすべてを捨てられる人なんだろうと思います。
これが榎本の性格や思考、すべての核になっています。
■ガラスの密室とガラスの箱
最終話の冒頭で芹沢と青砥は「ここには一見、密室なんて存在しないかのように見えます」から始まるテーマ提示部分で、榎本が無意識にガラスの密室を作り上げ、閉じ込められていたこと、榎本は芹沢と青砥にこの密室を残して去っていたことを述べていました。
一見心を開いたかのように見えた榎本がのちにまさかの行動に出ることから、ガラスの密室とは、一見何もないように見えて、実は透明なバリアーで覆われ、誰にも触れることのできない榎本の内面、と解釈できると思います。
ここにきて、タイトル「鍵のかかった部屋」は榎本の心を象徴し、榎本が2人に心開くかどうか、が根底のテーマだったことがようやくわかるわけです(笑)
一方、ガラスの箱。密室と箱。大きさは違うけれども、象徴しているものは同じく、誰かに触れさせたくない内面だと思います。
「ガラスの箱に閉じ込められるのはごめんです」とありますが、箱の方がより窮屈で身動きが取れず、自ら閉じたガラスの密室に対し、周囲によって無理やり閉じ込められるような印象を受けます。
さらに、榎本が「閉じ込められるのはごめんです」というところから、すでに閉じ込められた椎名だけでなく、榎本もまだ閉じ込められてはいないけど、このままだと閉じ込められるかもしれないと危機感を感じていると分かります。
榎本は長年何か(たぶん殺人)を我慢してきたことで閉じ込められることを防いできたものの、弁護士たちに出会って再度閉じ込められるような危機感が生まれたと考えられます。
前者の説明は、少し前に書いた椎名との違いと被るので割愛。
後者は、芹沢・青砥と親交を深め、チームになってしまったら、ガラスの向こう側にある世界のルールに従って生きることになる、ことだと思います。その時榎本は、窃盗(あるいはほかの犯罪?)をした過去の自分を偽り、自らが生まれてからずっとガラスの向こう側にいるような顔をして生きていくことになります。ガラスの箱に閉じ込められる=エリートや善意といった光(らしき場所)に囲まれて、自分を押し殺し偽りの中で生きていくということなんだろうと思います。
また榎本が自らの闇を隠したい相手であり、榎本にとって「ガラスの向こう側」の象徴は青砥純子(あとちょこっと芹沢)です。なので、青砥と付き合う(恋愛感情を示す)ためには、青砥の信頼を裏切れない息苦しい日々が待っていることも意味しています。
■去っていく榎本
榎本がダイヤを盗んで逃亡しない限り、今までのように好きな鍵と錠と戯れ、ほどほどに仕事をし、たまに弁護士たちがやってきてお茶を飲んでいくような日々が続くはずでした。警察の調査が入っても決定打はなかったわけですし。
でも、榎本は全てを捨てて離れることを選びます。理由は上記の通り、弁護士たちに付き合う中で、「ガラスの箱に閉じ込められる」危機感を抱いたからです。けれども、これも半分くらい榎本さんが建前にした理由かなぁとも感じます。
本当は、榎本は2人に情がうつってしまい、それまでの価値観を捨てて息苦しい日々を選択してしまいそうな自分が感覚的に怖かったんじゃないかなと思っています。うーん、なので、言葉に落とすと分かりにくいけども、榎本さんの感情的には、ガラスの箱に閉じ込められる危機感というよりも、かたくなに閉ざしていたガラスの密室を開けられてしまうことにおびえた上での逃亡なのかなぁと。
最終話までは、青砥・芹沢との出会い&様々な密室の解決をきっかけに、今までとは違う自分を発見し「ガラスの向こう側」に行くことに心惹かれていく話でした。しかし、椎名と対峙する中で、本来の自分をまざまざと見せられ、榎本は光(たぶん青砥)に全てを晒せない自分に気付いてしまいます。
本来の自分に戻ることを選択し、「自由でいたい」と最後の判断を下します。この時の切なくも穏やかな表情と声は、ずっと続いた葛藤を終わらせて選択をする安堵と、変わらない自分でいられる安堵を表現しているんじゃないかと。
そして、彼らに真相をぼんやり感じさせるように泥棒らしい仕事をし、空港で電話を掛けます。最後のニヤリは、2人に電話しても心が揺るがず、決別し、元に戻れた自分に満足したからなのかなーと感じました。
が、榎本は本当に彼らに未練がなかったら電話しないと思います。なので、決断して離れたものの、真相はグレーで、少しは繋がっていたいし帰りたい気持ちも残ってるんじゃないかなと考えています。
■全体の感想
ミステリー部分はすごくフェアでさっぱり解決されるのに、ストーリー部分は全体的に視聴者に解釈をゆだねるような、親切すぎない作りがドラマらしくてすごくよかったなぁと思います。
榎本の手のひらで転がっていた3ヶ月を思うと、すごーく悔しい!
当日のツイにも書きましたが、役の作りとしては成瀬先生を裏返したような見せ方で、そのあたりもちょっと面白かったです。
とはいえ、正直ここまできれいにオチをつけられると、もはや言葉が出ない(笑)
ここで終わるのがきれいなのはわかってるけども、いつかSPか映画化を!待ってます!貴志先生の新作に期待(じっくり書く先生だけども)してます!!
ついでに、原作のもうちょっと大人であくどい榎本径で戻ってきてくれると嬉しい!!笑
セリフも演出もじっくり見返したくなるような、あざと過ぎず、分かりやす過ぎずな作りですし、いろいろ発見や解釈の仕方のある面白い作品だと思います^^
最終話まで見て榎本さんの裏切りに絶句した後は、榎本さんの動きに悶え、純子ちゃんの可愛さに悶え、せりーのお茶目さに悶えながら2週目を見たり、そのあと映像に見慣れてきても細部まで目を配ってみたらまだまだ面白い演出あると思います。
(大きい男性陣と小さい大野さんとか、椎名と榎本のシーンで2人がどの位置で対面しているか等々)
こんなにめんどくさく考えなくても、エンタメ作品としてすごく面白く見られる作品ですし、スタイリッシュでドライな世界観が確立している点も新鮮でした。演技面でも大野さんの繊細な役作りが非常に活きていて、大野さんだから榎本が魅力的なキャラクターに育っていったと思うので、魔王のように感情をあらわにしない分、よけいに大野さんの演技や役作りの仕方が堪能できた気がしています。他にも身体能力とか手のアップとかも本当手フェチにはたまらなかったです(笑)
もちろん、青砥役・芹沢役の2人の演技も見どころたっぷりで、2人のキャラクターが大好きになりました!!本当に素晴らしかったです。
そんなわけで、私は名作揃いの大野さん主演作の中でも「鍵のかかった部屋」はダントツに完成度が高い作品だと感じています。
一見あっさりに見えて、かなりのスルメドラマなので、BOXを買っても損しないと思います!(特典映像もついてきますし)
BD週間一位も納得ですね♪
まめかん的な解釈はこんな感じですけど、日数かけてもしっくりこない部分があるので、みなさんの感想やら有名な説やらを教えていただけたら嬉しいです!
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